宅地建物取引業法(以下、宅建業法)は、不動産取引の公正さと透明性を確保するため、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)に対して、取引の段階に応じて内容の異なる2つの重要な書面の交付を義務付けています。それが「35条書面(重要事項説明書)」と「37条書面(契約書面)」です。
35条書面(重要事項説明書)
35条書面は、一般に「重要事項説明書」と呼ばれる書面です。
- 目的: 契約を締結する前に、物件の状態や法令上の制限、取引条件といった契約の判断に不可欠な重要事項を、買主や借主となる相手方に詳しく説明するためのものです。相手方が十分な情報を基に、契約を結ぶかどうかの最終判断を下せるようにすることを目的とします。
- 交付・説明のタイミング: 売買・貸借の契約が成立する前。
- 交付の相手方: 買主または借主(宅建業者が取引の相手方となる場合はその相手方)。
- 説明の義務: 宅地建物取引士が、記名した書面を交付した上で、対面またはIT(テレビ会議等)を活用した方法で、相手方に内容を説明しなければなりません。この説明義務を省略することはできません。
37条書面(契約書面)
37条書面は、契約が成立したことを証明する「契約書」そのものにあたる書面です。
- 目的: 契約が成立した後に、当事者間で合意した契約内容(代金の額、支払時期、引渡し時期など)を明確に書面化し、後のトラブルを防止することを目的とします。
- 交付のタイミング: 契約が成立した後、遅滞なく。
- 交付の相手方: 契約の両当事者(売買であれば売主と買主、貸借であれば貸主と借主)。
- 記名の義務: 宅建業者は、交付する37条書面に宅地建物取引士をして記名させなければなりません。ただし、35条書面と異なり、宅建士による説明の義務は法律上定められていません。
35条書面と37条書面の比較表
項目 | 35条書面(重要事項説明書) | 37条書面(契約書面) |
目的 | 契約締結前の判断材料の提供 | 契約成立後の契約内容の明確化 |
交付時期 | 契約成立前 | 契約成立後、遅滞なく |
交付相手 | 買主・借主 | 契約の両当事者 |
説明義務 | 宅地建物取引士による説明が必須 | 法律上の説明義務はない |
記名者 | 宅地建物取引士 | 宅地建物取引士 |
電子化 | 相手方の承諾があれば可能 | 相手方の承諾があれば可能 |
主な記載事項の一覧表
以下は、売買契約における主な記載事項の比較です。貸借の場合は一部内容が異なります。 (〇:記載が必要な事項、△:定めがある場合に記載が必要な事項、-:記載不要)
区分 | 主な記載事項 | 35条書面 | 37条書面 |
当事者・物件の表示 | 当事者の氏名(名称)・住所 | - | 〇 |
物件の特定に必要な表示(所在地、地番等) | 〇 | 〇 | |
物件に関する事項 | 登記された権利の種類・内容、所有者名義 | 〇 | - |
法令上の制限(都市計画法、建築基準法等) | 〇 | - | |
私道負担に関する事項 | 〇 | - | |
飲用水・電気・ガス・排水施設の整備状況 | 〇 | - | |
(既存建物の場合)建物状況調査の結果の概要 | 〇 | - | |
造成宅地防災区域等の有無 | 〇 | - | |
水害ハザードマップにおける物件の所在地 | 〇 | - | |
石綿(アスベスト)使用調査の結果の内容 | 〇 | - | |
耐震診断を受けたものであれば、その内容 | 〇 | - | |
(マンションの場合)専有部分の用途制限、管理費・修繕積立金の額等 | 〇 | - | |
取引条件・金額に関する事項 | 代金・交換差金の額、支払時期、方法 | - | 〇 |
物件の引渡しの時期 | - | 〇 | |
所有権移転登記の申請時期 | - | 〇 | |
代金・交換差金・借賃以外に授受される金銭の額と目的 | 〇 | △ | |
契約の解除に関する定め | 〇 | △ | |
損害賠償額の予定または違約金に関する定め | 〇 | △ | |
手付金等の保全措置の概要 | 〇 | - | |
ローンのあっせんに関する内容・不成立時の措置 | 〇 | △ | |
契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)の内容・保証等の措置 | 〇 | △ | |
租税その他の公課の負担に関する定め | - | △ | |
天災その他不可抗力による損害の負担(危険負担)に関する定め |
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