契約不適合責任とは
契約不適合責任とは、売買契約など有償契約において、引き渡された目的物(商品や不動産など)が、種類、品質、または数量に関して契約の内容に適合しない場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。2020年4月1日施行の改正民法により、従来の「瑕疵担保責任」から変更されました。
契約不適合責任が発生する主なケース
目的物が以下のような場合に、契約の内容に適合しないと判断される可能性があります。
- 種類に関する不適合: 契約したものとは異なる種類の物が引き渡された場合(例:Aという品種のリンゴを注文したのにBという品種が届いた)。
- 品質に関する不適合: 契約で予定されていた品質基準を満たしていない物が引き渡された場合(例:新品として購入した電化製品が正常に動作しない、雨漏りしないという説明で購入した中古住宅が雨漏りする)。
- 数量に関する不適合: 契約した数量に足りない物が引き渡された場合(例:100個注文した部品が90個しか届かなかった)。
買主が請求できる権利
契約不適合があった場合、買主は以下の権利を主張できる可能性があります。ただし、それぞれの権利を行使するには一定の要件を満たす必要があります。
- 追完請求権 (民法第562条):
- 目的物の修補
- 代替物の引渡し
- 不足分の引渡し
ただし、売主に不相当な負担を課するものでないときに限ります。また、買主に不相当な負担を課するものでないときは、売主は買主が請求した方法とは異なる方法による履行の追完をすることができます。
- 代金減額請求権 (民法第563条):
- 買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がない場合。
- 履行の追完が不能であるとき、または売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したときなど、催告が不要な場合もあります。
- 不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます。
- 損害賠償請求権 (民法第564条、第415条):
- 売主の責めに帰すべき事由によって契約不適合が生じた場合に、買主は損害賠償を請求できます。これは債務不履行の一般原則によります。
- 契約の解除権 (民法第564条、第541条、第542条):
- 買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がない場合で、債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微でないとき。
- 履行の追完が不能であるとき、または売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したときなど、催告をしないで直ちに契約の解除ができる場合もあります。
権利行使の期間制限
買主が契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないと、原則として上記の権利(追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除)を行使できなくなります(民法第566条本文)。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知っていたり、重大な過失によって知らなかったりした場合には、この期間制限は適用されません(同条ただし書)。
なお、この1年の期間制限は、あくまで「通知」の期間であり、権利自体の消滅時効とは異なります。権利の消滅時効は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、または権利を行使することができる時から10年間です(民法第166条)。
売主の責任が免責される場合
- 買主の責めに帰すべき事由による不適合: その不適合が買主の責任によって生じた場合は、売主は責任を負いません(民法第562条第2項など)。
- 特約による免責: 当事者間の合意(特約)によって、売主の契約不適合責任を免責したり、軽減したりすることも可能です。ただし、売主が知りながら告げなかった事実や、自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、責任を免れることができません(民法第572条)。
項目 | 内容 | 主な関連条文 |
定義 | 売買などの有償契約において、引き渡された目的物が種類、品質、または数量に関して契約の内容に適合しない場合に、売主が買主に対して負う責任。 | (改正民法全般) |
契約不適合の対象 | 目的物の種類、品質、数量。 | 民法第562条第1項など |
買主の権利 | ||
(1)追完請求権 | 目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しを請求できる権利。ただし、売主に不相当な負担を課するものでないときに限る。 | 民法第562条 |
(2)代金減額請求権 | 相当の期間を定めて追完を催告し、その期間内に追完がない場合などに、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる権利。 | 民法第563条 |
(3)損害賠償請求権 | 売主の責めに帰すべき事由により契約不適合が生じた場合に、損害の賠償を請求できる権利(債務不履行の一般原則による)。 | 民法第564条、第415条 |
(4)契約の解除権 | 相当の期間を定めて追完を催告し、その期間内に追完がない場合で、債務不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微でないときなどに、契約を解除できる権利。 | 民法第564条、第541条、第542条 |
権利行使の期間制限 | ||
(1)不適合の通知期間 | 買主が目的物の種類または品質に関する不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないと、原則として追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除ができない。 | 民法第566条本文 |
※数量に関する不適合や、目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことにつき売主がその引渡しの時に知っていたり、重大な過失によって知らなかったりした場合は、この1年の通知期間の制限はない。 | 民法第566条ただし書 | |
(2)消滅時効 | 上記の通知期間とは別に、債権の一般的な消滅時効(権利を行使することができることを知った時から5年間、または権利を行使することができる時から10年間)が適用される。 | 民法第166条 |
売主の責任が免責される場合 | ||
(1)買主の帰責事由 | その不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合は、買主は追完請求等をすることができない(ただし例外あり)。 | 民法第562条第2項など |
(2)特約による免責 | 当事者間の特約で、売主の契約不適合責任を免除または制限することが可能。ただし、売主が知りながら告げなかった事実や、自ら設定・譲渡した権利については、その責任を免れることができない。 | 民法第572条 |
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