担保物権とは
民法における担保物権は、債権の回収を確実にするために、特定の物や権利を担保として提供させ、債務が履行されない場合にはその物や権利から優先的に弁済を受けることができる権利です。
担保物権の種類
民法典で定められている典型担保と、判例法上認められてきた非典型担保があります。
1. 典型担保(民法典上の担保物権)
- 留置権(りゅうちけん): 他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる権利です(民法第295条)。
- 例: 時計の修理業者が、修理代金が支払われるまで、その時計を留置するケース。
- 先取特権(さきどりとっけん): 法律で定める特定の債権を有する者が、債務者の総財産または特定の動産・不動産から、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受けることができる権利です(民法第303条)。
- 種類: 一般の先取特権(共益費用、雇用関係、葬式の費用、日用品の供給)、動産の先取特権(不動産の賃貸借、旅館の宿泊、運輸、動産の保存、動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務、工業の労務)、不動産の先取特権(不動産の保存、不動産の工事、不動産の売買)などがあります。
- 質権(しちけん): 債権の担保として、債務者または第三者から受け取った物を占有し、債務が弁済されない場合にはその物から優先的に弁済を受けることができる権利です(民法第342条)。
- 対象: 動産(動産質)、不動産(不動産質)、権利(権利質)があります。
- 抵当権(ていとうけん): 債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、債務が弁済されない場合に、その不動産から優先的に弁済を受けることができる権利です(民法第369条)。
- 特徴: 目的物の占有を債権者に移す必要がないため、設定者は目的物を使用収益し続けることができます。
- 根抵当権(ねていとうけん): 設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保する抵当権です(民法第398条の2)。
- 特徴: 継続的な取引関係から生じる多数の債権をまとめて担保するのに適しています。
2. 非典型担保(判例法上認められた担保物権)
民法典に直接的な規定はありませんが、経済的必要性から判例法によって形成・承認されてきた担保の形態です。
- 譲渡担保(じょうとたんぽ): 債務者が債権の担保として、その所有する物の所有権を債権者に移転し、債務が弁済されれば所有権を返還し、弁済されなければ債権者がその物の所有権を確定的に取得するか、または換価して優先弁済を受けるという担保方法です。
- 根拠: 判例法理によって認められています。
- 仮登記担保(かりとうきたんぽ): 「仮登記担保契約に関する法律」によって規律されています。金銭債務の担保として、債務者または第三者所有の不動産について、代物弁済の予約や停止条件付代物弁済契約などを締結し、債権者が仮登記を備える方法です。債務不履行の場合に、債権者が清算手続きを経た上で不動産の所有権を取得するか、または換価処分して優先弁済を受けます。
担保物件の性質
付従性 | 担保の目的の債権が発生しなければ担保物件は発生せず、債権が消滅すれば担保物件も消滅する |
随伴性 | 担保の目的となる債権が移転すれば、担保物件もこれに伴って移転する |
不可分性 | 担保の目的の債権全部の弁済を受けるまで、目的物の全部に権利を行使し得る |
物上代位性 | 担保目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けた金銭その他のものについても権利を行使することができる。 |
優先弁済効力
担保物件の権利者が、他の債権者に優先して債権を回収することができる。
留置的効力
担保物件の権利者が、債権を回収するまで担保の目的物を手元に置いておくことができる。
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